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2023/06/13

HoloLens 2 を導入し、“ヒト中心”の医療を目指す HITO病院。 積極的な試行錯誤こそが未来を築く第一歩

高齢化、人口減少に伴い、我が国の医療業界においては介護ケアまで含めた医療システムの構築と医療の担い手の確保・育成が喫緊の課題となっています。特に大都市圏から離れた地方では高齢化、人口減少の影響が顕著であるうえに、交通や生活インフラの利便性が低いことから、地域内の医療機関の連携や人材の確保、医療環境の整備がより切実に求められています。

こうした課題に対応するために、全国の医療機関では ICT の活用による医療サービスや働き方の向上を進めています。愛媛県の社会医療法人石川記念会 HITO病院では、マイクロソフトの MR(複合現実)デバイス「Microsoft HoloLens 2」 を教育や研修、各診療科の診療サポート、さらには他の医療機関との連携に活用することで、人材育成の推進や医療サービスの維持・向上に役立てようとしています。

HITO Hospital

医療スタッフが本来業務に取り組むために、もはや ICT は欠かせないツール

HITO病院は 2013 年の開院以来、愛媛県四国中央市で地域の中核病院として急性期医療に対応。2022 年度には 2,000 件を超える救急搬送を受け入れています。愛媛県の東端という立地のため県外からの搬送も多く、COVID-19 への対応にも積極的に取り組んできました。

コロナ禍以前から ICT 技術を活用した DX を進めていた同院では、2020 年にマイクロソフトのクラウドサービス Microsoft 365 を導入。Microsoft Teams による院内コミュニケーションの強化や Power BI による情報可視化アプリの開発・活用を実現し、より強靭で柔軟な病院経営を推進しています。

ICT 活用の効果について「以前の働き方にはもう戻れないというのが率直な感想です」と、理事長の石川賀代氏は語ります。場所に縛られず、情報共有がスムーズに行われるようになったことで、対面での打ち合わせや電話によるやり取りの必要性がほとんどなくなったと言います。

「この地域では高齢化率が約 32% で、当院の入院患者さまも 75 歳以上の方が大きな割合を占めています。多疾患のある患者さまも増え、そのなかにはナース コールを押す動作もままならない方も含まれます。そういった状況で患者さまに質の高い医療サービスを提供し、医療提供者が本来業務に集中できる環境を整えるためにも、ICT の活用は重要な解決策だと考えています」(石川氏)

人口減少時代においても高度医療の提供を維持するために HoloLens 2 を導入

そんな HITO病院が ICT 活用施策の次の一手として着目したのが、HoloLens 2 の活用でした。DX推進室CCTO (Chief Clinical Transformation Officer) であり脳神経外科医でもある篠原直樹氏によると、その背景にあるのは地域の中核病院として抱いていた危機感だったそうです。

医療人材の不足が予測されるなかで、地方の医療機関としては手術の担い手が集まらず、手術件数が減ることが一番の懸念となります。手術ができなければ収益は減少し、新しい医療設備を整えることも難しくなり、医療の質が下がるという悪循環に陥りかねません。篠原氏は「これからの地域医療を考えたときに、遠隔の手術支援は必須になるだろうと考えています」と予測します。

また、医療スタッフの視点から見ると、優秀な指導者を多数雇用することはできませんし、雇用できたとしても優秀であるがゆえに自分の業務に忙殺されてしまい、高度な診療が属人化してしまう可能性があります。そこで「大人数の優秀な医療スタッフを集めることが難しいのであれば、それと同じような状況をつくれればよいのではないか」と思い至ったという篠原氏。

「HoloLens 2 を活用すれば、空間と空間を繋げたコミュニケーションが可能になります。他のスマート グラスと比べてディスプレイも広いので、さまざまな情報を同一視野で見ることもできる。現場の情報を離れた場所にいる専門医に共有して、指導やアドバイスを受けるような環境もつくれます。地域を超えた連携など臨床現場での活用を見据えつつ、教育支援ツールとしての活用が期待できると考えています」(篠原氏)

こうして同院では HoloLens 2 を人員不足課題の解決や、人材育成に活用するプロジェクトを開始。各診療科に情報を共有して、さまざまな可能性を探っています。

術前準備の支援ツールとして HoloLens 2 の実証を開始

篠原氏が部長を務める脳神経外科では、脳血管内治療の手術前に必要な準備である、カテーテルを血管の形に合わせて曲げる作業のサポート ツールとしての活用、検証が進められています。

手術を受ける患者の高年齢化が進むなか、くも膜下出血や脳血管障害などの患者に対して脳神経外科で行われる脳血管内治療においては、身体の負担をなるべく抑える低侵襲の手術が注目されています。

たとえば、動脈瘤の治療においては、頭の血管は高齢になるほど屈曲蛇行が強くなる傾向があるため、なるべく時間をかけずに手術を行うためには、術前に血管の屈曲に合わせてカテーテルを曲げていき、形をつけておく準備が大切です。

カテーテルを曲げる作業を行う際、通常は患部を前面と側面から写した平面の画像を見比べて、立体を想像しながら目測で作業を行います。経験の浅い医師にとっては、習熟までに相当な時間を要する作業です。これまでは 3D プリンターで原寸大のモデルを出力して、それを参考に屈曲していましたが、血管の中までは観察できませんでした。

「HoloLens 2 を使えば、約 2~3 ミリ程度の実寸大の脳血管をホログラムで立体的に表示することができます。血管の中を透過して見ることもできますし、実際のサイズをもとに作業できることで、経験の浅い医師でもカテーテルを曲げるイメージがしやすくなるだろうと考えました」と語るのは、脳血管内治療科 部長の岡本薫学氏。手慣れた様子で HoloLens 2 を装着してカテーテルの屈曲作業を行う様子を見ると、その有効性がよくわかります。

「カテーテルが正確に屈曲できていないと血管を傷つけてしまう恐れがあるので、手術中に屈曲をやり直すこともあります。その分手術時間が伸びて患者さまにも負担をかけてしまうことになりますから、術前に正確に屈曲して手術に臨めるのは、大きなメリットです」(岡本氏)

岡本氏はそれ以外の使い道として「若手医師の研修の場や、カンファレンスで患者の血管の状態や医師が考えている治療方針を医療スタッフに共有する際に、視覚的にわかりやすく説明できるようになる」と、HoloLens 2 の可能性に期待を寄せます。

「これまでは、3D プリンターでモデルを出力する時間や、制作後に形を整える作業者の労働コストがかかっていました。また、屈曲に失敗すれば新しいカテーテルを使わなければいけません。それらのコストを考えると、費用対効果も見込めると考えています」(篠原氏)

医療連携を見据えつつ、教育やシミュレーションの場での実用化を目指す2022

整形外科も、HoloLens 2 の活用に期待を寄せている診療科のひとつです。

「3D モデルをかなり精巧にホログラムとして作成できるので、任意の角度から確認できる点に可能性を感じています」と語るのは、整形外科医師の中須賀允紀氏。整形外科では現在、手術の計画を立てる際に、HoloLens 2 で血管や神経の位置を確認しながら脊椎や骨折を固定するためのスクリューの角度や深度を決めていくといった、手術の補助ツールとしての活用が検討されています。

整形外科 部長の間島直彦氏は、「手術の際に人工関節のオブジェクトを術野に重ねて、インプラントを正確かつ確実に設置するためのガイドとして使う、といった活用法がひとつの理想です」としつつ、現実的には清潔(滅菌されている状態)の確保や HoloLens 2 の操作性といった課題があるため、まずは教育やシミュレーションの場での活用を進めるべき、と語ります。

「ごく稀にですが、骨折や人工関節の手術の際に、直視できない筋肉内や骨盤内の血管を損傷するトラブルが起こり得ます。そのリスクを若手医師に仮想的に経験してもらうツールとして使うことを考えています」(間島氏)

整形外科では、HoloLens 2 を装着してオブジェクトを動かす訓練を重ねながら、活用方法について議論を重ねています。

「間島先生は愛媛大学で地域医療再生学講座の教授を務めており、地域や大学と連携して医療の質を高める活動にも取り組んでいます。今後、そういった医療連携の場でも HoloLens 2 の活用を検討してもらいたいと考えています」(篠原氏)

HITO中心の医療を実現するために、率先して最新技術に取り組むことが使命

現在の日本で HoloLens 2 を臨床の現場で活用している事例は多いとは言えません。機能との親和性は高いものの、精度や清潔が求められる手術現場での活用は慎重にならざるを得ず、HoloLens 2 は日本では医療機器として認可されてないために、HoloLens 2 を用いた診療支援には診療点数は加算されないといった制度的な問題もあります。

それでも同院では、HoloLens 2 と ICT の可能性を信じて導入を決めました。

「ソリューションが確立されてから導入すると、与えられたものの使い手という立場にしかなれません。Power BI や Teams に関しても、使ってみて初めて得られた気づきがたくさんありました。人材が集まり、医療の質を高め、地域医療の中核を担い得る病院を目指す当院にとっては、こうした先端技術に初期段階から取り組み、試行錯誤する姿勢が大切だと考えています」(篠原氏)

その姿勢の背景には、同院の理念があります。同院の名称である「HITO」には、Humanity(人間性)・Interaction(相互作用)・Trust(信頼)・Openness(開放)を大切に行動するという意思が込められています。そして経営理念は「HITO を中心に考え、社会に貢献する」。その理念に基づいて、「患者や働くスタッフの暮らしを第一に考えた医療サービスの形を考え続けることが、私たちに課せられた使命です」と石川氏。その一環が ICT の積極的な活用です。

「これからは、経験値だけでは乗り切れない時代になります。ですから、新しいことを吸収して咀嚼し、新しい何かを生み出すチャレンジを続けることは、私たちの使命だと思っています。その姿勢で ICT の活用に取り組むことで、少しでも医療業界の未来に貢献できれば幸いです」(石川氏)

自分たちが率先して新たな技術に挑戦し、安全性を確保しながら医療の現場にマッチさせていくこと。従来の当たり前を先端技術の力で変革し、より人に近いところで医療の力を存分に発揮すること。それこそが HITO 病院の目指す姿であり、質の高い地域医療サービスを提供し続けることでしょう。

“患者さまに質の高い医療サービスを提供し、医療提供者が本来業務に集中できる環境を整えるためにも、ICT の活用は重要な解決策だと考えています”

石川 賀代 氏, 理事長, 社会医療法人石川記念会 HITO病院

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