デジタル技術の革新に伴い、人材を育成する教育現場にも変化が求められています。IT・デジタルコンテンツ業界で活躍する “プロ” を育てる専門学校HAL(東京・大阪・名古屋)は、従来のオンプレミスから、クラウドをベースとするカリキュラムへのシフトを進めています。教育面と運用面を重視し、デジタル時代に応える教育を支えるクラウドとして同校が採用したのが Microsoft Azure です。同校では、Azure とともにカリキュラムを進化させ、学生の可能性を広げる取り組みを続けています。
オンプレミスからクラウドを活用したカリキュラムへのシフトが急務に
希望者就職率 100 % の実績を有する HAL。卒業時に就職できない場合、就職が決定するまで必要な学費を 2 年間にわたり同校が負担する『完全就職保証制度』などサポート体制も充実しています。ゲーム、CG/映像、ミュージック、カーデザイン、IT/Web/AI/データサイエンスなど各業界が求める人材をいかに育成するか。同校が重視しているのは、実践的教育です。優れた人材を数多く輩出してきたノウハウのもと、ゼロ(初心者)をプロに育てる独自の教育システムにより、知識・技術の修得はもとより創造力、応用力、業界適応力を身につけることができます。また、第一線で活躍するプロが直接指導するスペシャルゼミ、世界の一流企業と学生が一緒にものづくりに取り組む産学連携など、業界直結のカリキュラムも同校の特長です。
デジタル技術の進化に伴い、IT・デジタルコンテンツ業界が大きく変化する中、同校においてもカリキュラムの見直しが急務でした。「2019 年に、IT や AI、Web 開発を学ぶ高度情報学科では、従来のオンプレミスからクラウドをベースとするカリキュラムへのシフトを視野に、他社製のパブリッククラウドを検討していました」と HAL 教務部主任 浅田正雄氏は話し、こう続けます。
「しかし、話はなかなか進みませんでした。高額な利用料金に加え、学生が使うため課金も含めた統制と柔軟性をどう実現するかが課題となっていたのですが、本学の要望を伝えても特別な対応はできないとの回答ばかりで膠着(こうちゃく)状態が続いていました」
クラウド選定と並行して、学生/教職員のコミュニケーションや情報共有を円滑にするために、Microsoft 365 Education の導入プロジェクトも進んでいました。「まず、無償の Office 365 Education A1 を、私たち教職員が利用してみて、使いやすいことを確認したうえで、2021 年 4 月に本学全体で Microsoft 365 Education A3 を導入しました。しかし、導入の過程で、カリキュラムにクラウドを組み込むプロジェクトが立ち往生してしまいました。その事をマイクロソフトに相談すると、Azure を活用した提案を受けました。マイクロソフトの提案は、一般企業ではなく、教育機関にクラウドを導入することの意義を深く理解していましたね」と浅田氏は振り返ります。
オンライントレーニングと資格取得がセット。Azure 導入で就職活動に強みをプラス
教育機関として Azure を導入したポイントについて浅田氏はこう話します。「ポイントの一つは、マイクロソフトが提供する認定資格取得プログラムである Microsoft Learn です。DX (デジタル トランスフォーメーション)が進む中で、企業からクラウドや AI などのスキルがますます求められています。クラウドや AI をソリューションとして提供しているマイクロソフトの認定資格を取得できたら、学生が就職活動で企業に知識やスキルをアピールできます。Microsoft Learn は試験費用も廉価なので学生に薦めやすい。これはぜひ、やってみようとなりました」
HAL 教務部 教官 宮内清臣氏は、「Microsoft Learn は、まずオンライントレーニング で学び、学習した成果をもとに資格試験を受ける流れが整っているため、学生もチャレンジしやすいと思います。Azure をカリキュラムに組み込むことで、資格取得という目標に向けて知識やスキル修得のモチベーションも高まります」と付け加えます。
IT・デジタルコンテンツ教育の観点では、デジタル技術の最新動向のキャッチアップも課題となります。「AI、IoT などの最新機能をアップデートする Azure は、学生に先進的な環境を提供できることに加え、IT 教育が向かうべき技術的な指標になります」と浅田氏は強調します。
権限設定により、利用料金の統制と学生が自由に使える環境の担保を実現
2021 年 6 月に、同校では Azure のライセンスを取得。コストと運用面をクリアできたことが採用の決め手になったと浅田氏は話します。「単体サービスではなく総合的な観点を重視しました。Azure、Microsoft 365 Education、Microsoft Teams for Education、Microsoft Azure AI や Microsoft Power BI、そしてAzure Active Directory (Azure AD)など、本学で必要なツールを一元管理することで、トータルコストの削減、運用管理負荷の軽減が図れます」
一方で懸案だった、授業で利用するクラウドに必要となる統制と柔軟性をいかに実現するかについて、浅田氏はこう振り返ります。「一般企業のクラウド利用では、利用の統制をしっかりときかせることが可能です。しかし教育においては、柔軟に利用できないと、円滑な授業や学習のしやすさに影響を及ぼすケースも考えられます。私たちは解決策を持ち合わせていなかったので、マイクロソフトに相談し、教育機関向けに Azure の導入設計/サポートの実績を持つ株式会社ナレッジコミュニケーションをご紹介いただきました。私たちのさまざまな要望をお伝えし、打ち合わせを重ねながら授業でのクラウド利用をかたちにしていきました」
同校における Azure 導入設計のポイントについて、株式会社ナレッジコミュニケーション ビジネスデベロップメント部 マネージャー 中西貴哉氏は話します。「誰がどのくらい使っているか、わからないままにどんどん課金されるリスクの回避は、重要なテーマでした。また将来的に、学生が自由課題で Azure を利用できるようにしたいとのお話もありました。学生が自由に使える環境を担保しつつ、利用料金の面では統制のとれた状態をつくりだすことが必要でした。浅田様とディスカッションする中でご提案したのが、権限設定の活用です。リスクヘッジのために、各授業における Azure の利用状況を想定し、統制と自由度のバランスを考慮した権限設定を行い、その範囲で使える仕組みにしました」
マイクロソフトとの産学連携卒業制作の半数で Azure を活用
仕組みづくりとともに、Azure を活用したカリキュラムの見直しも実施されました。「従来、オンプレミスで行っていた設計や構築などを、クラウドに置き換えることから始めました。今後もその流れを加速していきます。2021 年度後半から、4年制の高度情報学科 高度情報処理コース/WEB 開発コースの最高学年では Azure の基礎を学び、Azure のサービスを利用して卒業制作を行いました」(宮内氏)
2022 年度から高度情報学科に新設された AI システム開発コースの授業でも Azure の利用を開始。また 2022 年度前半には、高度情報学科の最高学年の授業でマイクロソフトの産学連携プロジェクトに取り組みました。「テーマは、『小中高生向けの Azure 学習サービス』です。楽しみながらクラウドを学ぶコンテンツを、学生が企画/開発しました。街づくりシミュレーションを通して、クラウド構築を学ぶ WEB 学習教材『Azure Island』など面白い企画がたくさん出てきました。マイクロソフトから企画に関するアドバイスをフィードバックしてもらうことで、学生もモチベーション高く制作を続けることができました」(宮内氏)
2022 年度は、高度情報学科はもとより、Azure を活用した授業をまだ行っていなかった2年制の情報処理学科/WEB 学科でも、クラウドや AI を使った卒業制作が半数を占めました。「学生にとって、Azure は自分たちのアイデアをかたちにしていくうえで、非常に使いやすい環境だと思います。Azure 上でチーム開発を行い、コンテンツを作成し、さまざまな端末で動作確認を行うといった一連のものづくりを体験できるからです。さらに、画像解析など Azure の機能を使って、“これまでにないもの”をアイデアだけでなく実際に作り上げたことは、大きな成果だと思います」(宮内氏)
授業に Microsoft Learn を組み込み資格取得を促進、上級資格取得も支援
Azure を活用した授業において、教育効果と就職対策強化の面から、Microsoft Learn と資格取得をカリキュラムに組み込むことは重要なポイントでした。「高度情報処理コースと WEB 開発コースの 2 年生後期に Azure の基礎教育を実施。高度情報処理コースの 3 年生で、Azure を活用したシステム開発の授業を行っています。Microsoft Learnは、授業の一部としてとらえています。資格試験は、Azureの入門試験である 『AZ-900:Microsoft Azure の基礎』 をメインとし、高度情報処理コースと WEB 開発コースの 3 年生は年間 2 回受験できます」(宮内氏)
資格取得に向けたサポートにも力を入れていくと宮内氏は話します。「資格試験対策とともに、Azure を活用したカリキュラムを拡充し、Azure に触れる機会を増やすことで知識の定着を図っていきます。また高度情報処理コースの 2 年生も含め、資格試験を受験する学生を増やすことも課題です」
企業が学生に求めるスキルについて、「就職先に向けたプレゼンテーションとの位置付けで、企業を集めて行うオンライン学習発表会では、Azure を活用した学生に対する企業側の評価が高かったと聞いています」と浅田氏は話し、マイクロソフト認定資格取得の戦略的展開を述べます。
「2023 年度は 『AZ-900』 の資格取得率向上はもとより、Azure の AIサービスの初級試験である 『AI-900:Microsoft Azure AI の基礎』の受験を開始します。さらに、Azure データサービスの基礎試験である 『DP-900:Microsoft Azure のデータの基礎』や、上級資格へのステップアップを支援していきます。現在、IT 業界に就職する卒業生は多くいます。今後、AI エンジニアやデータサイエンティストの育成にも注力し、一般企業におけるデータ分析部門といった新しい就職先を開拓していきたいと考えています」
今後の授業への Azure 活用について浅田氏は話します。「人間のように自然に会話ができる『ChatGPT』が話題となっています。2024 年度に Azure OpenAI Service (ChatGPT) を活用したカリキュラムの導入を検討中です。また、ローコード/ノーコードで業務アプリを開発できる Power Apps を学ぶ機会も提供していきたいと思っています。さらに、高度情報学科だけでなく、ゲームやCGの学科などでも Azure を活用した授業を計画しています」
Microsoft Azure とともにカリキュラムを進化させることで、社会や企業のニーズに応える人材育成、学生の可能性拡大につながります。
“クラウドや AI をソリューションとして提供しているマイクロソフトの認定資格を取得できたら、学生が就職活動で企業に知識やスキルをアピールできます。”
浅田 正雄 氏, 教務部 主任, 専門学校HAL
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