2022 年 8 月に「DX 戦略」を発表し、同年 11 月に「DX 認定事業者」として認定された株式会社レオパレス21。これに先立ち、DX を支える「DX-Ready」な環境を整備するため、基幹系システムのクラウド化が行われています。その移行先として選ばれたのが Microsoft Azure。成長の伸び率が高いこと、Microsoft Office 365 との親和性、日本国内で使いやすいことが評価されました。2022 年 5 月には基幹系システムの「リフト」を完了。その後さらに、Azure Synapse Analytics を活用した、データ連携基盤の「シフト」も行われています。これと並行して、Azure OpenAI Service による、生成 AI の社内展開も実施。これらの「DX-Ready」な環境で DX を進めることで、さらなる「新しい価値の創造」を目指しています。
DX を意識し基幹系をクラウド化、3 つの理由から Azure を選択
「新しい価値の創造」を企業理念に掲げ、住まいに関わるビジネスを通じてさまざまな価値を提供している株式会社レオパレス21 (以下、レオパレス21)。家具・家電付きワンルームアパートの提供や、インターネット環境を標準装備するなど、常に新しいことに挑戦しながら成長を続けています。
2022 年 8 月には「DX 戦略」を発表し、スマート ロックなどのデジタル技術導入や、オンライン契約サービスの提供、契約書類の電子化を推進。同年 11 月には、経済産業省が定める DX 認定制度に基づいた「DX 認定事業者」の認定も受けています。このような「DX 戦略」の発表に先立ち、DX 推進の基盤を確立するために行われてきたのが、基幹系システムのクラウド化です。
「当社の基幹系システムは約 30 年前にメインフレーム上で構築されたものであり、賃貸事業と開発事業という 2 大事業の契約スタートから会計まで、一貫してサポートできるように設計されていました」と語るのは、レオパレス21 経営管理本部 情報システム部 DX推進グループでグループマネージャーを務める小野田 誠也 氏。しかしメインフレームの老朽化が進んだことから、2017 年には「脱メインフレーム」を目指し、Windows Server をベースとしたオープン化を実施したと振り返ります。「もともと COBOL や COBOL ライクな言語を使用したスクラッチ開発のシステムでしたが、オープン化に際してリライト ツールなどを活用し、Java へと移行しました」。
オープン化した当時は、DX は特に意識しなかったと小野田 氏。その後、オープン化したシステムのハードウェアの保守切れが見えてきたタイミングで、クラウド化の検討を始めることになったと言います。「このクラウド化に際しては『DX-Ready (DX 推進の準備ができている状態)』にすることが重要なテーマになりました」。
そのためのクラウド基盤として採用されたのが、Azure です。その理由について小野田 氏は次のように説明します。
「他のメガ クラウドも候補に挙げて比較検討していきましたが、いずれも新たな機能が続々と追加されており、機能面では優劣をつけがたい状況でした。それでも明確に Azure 採用を決められたのは、大きく 3 つの理由からです。第 1 は、成長の伸び率が高いこと。第 2 は、既に使っていた Microsoft Office 365 との親和性が高いこと。そして第 3 が、万一大きなトラブルが発生して裁判になった場合でも、国内法が適用されることが明示されており、日本国内で使いやすいと判断したことです」。
またクラウド基盤の選定段階では、オンプレミスのままでのハードウェア更新のコストと、Azure へと移行した場合のコストの比較も行われています。その試算の結果「Azure の方が 5 年間の TCO が安価になる」と評価されたと言います。
十分なオンライン性能を確保可能、移行作業も思っていた以上にスムーズ
2020 年 4 月には、オープン化されていたオンプレミスの基幹系システムを Azure に「リフト」するプロジェクトがスタート。実際の環境整備や移行作業を担うパートナーとして、株式会社インテック (以下、インテック) が参画します。「インテックをパートナーにしたのは、基幹系システムをオープン化したころからお付き合いがあり、その企業姿勢を高く評価していたからです。もちろん技術的なハードルを問題なくクリアしてくれるという期待もありました」。
この期待に対して「レオパレス21 様を担当している私たちのチームは、このころはまだ基幹系システムを Azure 上で構築した経験がなかったこともあり、最初はかなり不安を感じていました」と振り返るのは、インテック 首都圏産業事業本部 サービス第三システム部で上級プロフェッショナルを務める原 宏之 氏。特に、ユーザーが求める性能を実現できるのかが、大きな懸念事項になったと説明します。そこでまず行われたのが、Azure を実際に使った PoC (実証実験) でした。
「オンプレミスで動いていた基幹系システムの一部を、Azure の IaaS 上で実際に動かした結果、必要な性能を問題なく引き出せることがわかりました。また仮想マシンをすぐに立ち上げることができ、負荷変動の際も自由にサイジングできるため、オンプレミスよりも運用しやすいと感じました」 (原 氏)。
2022 年 5 月には基幹系システムのリフトを完了。「大きなトラブルもなく、思っていた以上にスムーズに進みました」と小野田 氏は振り返ります。また原 氏も「レオパレス21 様の基幹系システムは冗長化されており、Azure では別ゾーンに常にアクティブな待機系を用意することで実現しましたが、最初は同期遅れが生じるのではないかと危惧していました。しかし実際にはまったく問題なく、思っていた以上にスムーズにデータ同期できています」。
またこのリフトによって、大きく 2 つのメリットが新たに享受できるようになったと、小野田 氏は指摘します。
1 つは、サイジングの自由度が高まったことです。負荷が増大して仮想マシンのスペックが不足した場合でも、新たな仮想マシンを追加することですぐに対応できるのです。「実際には最初のサイジングが適切だったこともあり、大きな変更を行うことなく運用していますが、サイジングが自由になったのは大きな安心材料になっています」 (小野田 氏)。
もう 1 つは、ハードウェアの保守切れに伴うハードウェア更新のコストが不要になったことです。サーバー移行のためのシステム再構築や、新システムが問題なく稼働するかテストする必要もなくなりました。
このような成功を受け、レオパレス21 は次のプロジェクトに着手します。それがデータ連携基盤のクラウド移行です。
データ連携基盤は PaaS 機能でクラウド化、これと並行して生成 AI の活用も推進
「当社は基幹系システムだけではなくその周辺システムもスクラッチで開発しており、これらと基幹系システムをデータ連携基盤でつないでいます」と語るのは、レオパレス21 経営管理本部 情報システム部 システム開発グループでマネージャーを務める濱谷 優太 氏。このデータ連携基盤は、オンプレミス環境とは別に用意されたプライベート クラウド上で、パッケージ ソリューションを動かすことで実現していたと言います。「このパッケージ ソリューションのライセンス料が高く、年間で 2,000 万円以上も費やされていました。そのコスト削減のため、Azure に移行することになりました」。
このプロジェクトがスタートしたのは 2022 年 7 月。その基本方針となったのが、Azure の PaaS 機能を積極的に活用することでした。また今回もインテックのチームが開発パートナーとして常駐し、内製でのシステム構築を実施。そしてもう 1 つ注目したいのが、Microsoft の担当者が技術的な専門知識を顧客ごとにカスタマイズした形で提供する、Microsoft FastTrack for Azure も活用していることです。
「基幹系システムを IaaS に載せ替えることには成功しましたが、この時はまだ Azure の PaaS 機能には詳しくありませんでした」と原 氏。データ連携基盤と接続する各種周辺システムはそのままオンプレミスで動かすことになっていましたが、最初は Azure とオンプレミス システムをどうつなげばいいのかもわからなかったと振り返ります。「しかし FastTrack に相談することで、さまざまな疑問を短時間で解決できました」。
当初は ETL サービスを提供する Azure Data Factory でデータ連携基盤を実現することを検討していたと言うのは濱谷 氏。これも FastTrack に相談した結果、Azure Synapse Analytics を使ったほうがいいという助言を受けたと言います。
「このときはデータ連携のことだけを考えて Azure Data Factory がいいと判断していたのですが、長期的なデータ利活用も視野に入れると FastTrack の案の方が適切だと思い、助言通り Azure Synapse Analytics の採用を決定しました。実際のデータ活用はこれからですが、データ活用が容易な基盤が実現できたと考えています」。
2024 年 3 月にはデータ連携基盤も完成。この構築作業と並行して、2023 年 10 月には生成 AI である Azure OpenAI Service の全社リリースも行われています。
「生成 AI に関しては 2023 年春から導入を検討しており、当初は外部ベンダーに依頼しようと考えていたのですが、内製の方が活用が広がると考え、2023 年 7 月に内製による Azure OpenAI Service の環境整備に着手しました」と言うのは、レオパレス21 経営管理本部 情報システム部 DX推進グループでマネージャーを務める小山 佳範 氏。その最大の目的は、社内情報を積極的に活用し、社員の生産性を高めていくことだと説明します。
「そのために、文章の要約やひな形作成などが可能な『LeoAI Chat』を、Azure OpenAI Service によって実現しました。今後は社内に点在するドキュメント類の統合管理を進めながら、社内での生成 AI 活用を推進していく計画です」。
このように、基幹系システムの「リフト」、データ連携基盤の「シフト」、生成 AI の社内展開を、Azureを活用した内製によって進めてきたレオパレス21。今後はこれらをベースに、DX をさらに加速していく計画です。
「そのためのロードマップは現在作成中ですが、Azure によって『DX-Ready』な環境を実現したことで、当社の DX を次のフェーズに進めることが可能になりました。具体的に何を行うかはこれから決めていきますが、今後もデジタル技術を積極的に活用しながら、新たな挑戦を続けていきたいと考えています」。
FastTrack for Azure(FTA)は終了したプログラムで、現在は提供されていません。
“基幹系システムのリフト先として Azure を選んだのは、大きく 3 つの理由があります。成長の伸び率が高いこと、既に使っていた Office 365 との親和性、そして日本国内で使いやすいと判断したことです”
小野田 誠也 氏, 経営管理本部 情報システム部 DX推進グループ グループマネージャー, 株式会社レオパレス21
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