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2024/05/24

電話対応後の作業時間 (ACW) を大幅に短縮すると共に VOC 活用の精度も向上、Azure の各種 AI 機能を活用したコールセンター業務の効率化

16 の領域で 60 以上の事業を展開する DMM.com グループ。これらの事業を支えるうえで重要な役割を果たしているコールセンターでは、AI による業務効率化が推進されています。そのために採用されているのが、Azure Speech to Text と Azure OpenAI Service。電話による顧客対応の音声を自動的にテキスト化すると共に、その内容を生成 AI で要約し、VOC 分析に活かしているのです。これによって ACW (After Call Work:問合せ対応後の後処理) の時間を 27% (月間約 100 時間) 削減、将来は半分近くにまで短縮できる (月間約 200 時間削減) と期待されています。また VOC 分析では、問い合わせ内容のテーマや対応、関連事業部が解決すべき問題点などが、以前よりも明確に把握できるようになり、ACW に加えて分析の工数も月間で約 68 時間削減できました。DMM.com では今後も AI を積極的に活用し、人がやるべき仕事に人が集中できる環境の整備をさらに進めていく計画です。

DMM

ACW の時間短縮と VOC 分析の効率化かつ詳細化を目指し、マイクロソフトの AI サービスを導入

石川県加賀市のレンタルビデオ店として創業し、1998 年にビデオ通販/動画配信サイトを立ち上げた後、1999 年に株式会社デジタルメディアマート (現・DMM.com) を設立 (2003 年に現在の社名に改称、以下、DMM.com)。その後も規模の大小やジャンルに関係なく、未来を感じるさまざまなビジネスに投資し続け、現在では AI から地方創生まで、16 の領域で 60 以上の事業を展開しています。グループを構成する会社数は 26 社、2023 年度の売上高は 3,476 億円に達しており、DMM.com のサービスを利用する会員数も 4,100 万人を突破しています。

このような多岐にわたる事業を支えるうえで重要な役割を担っているのが、プラットフォーム開発本部 カスタマサポート部です。石川県にコールセンターを設置し、DMM.com グループが展開する60以上もの事業のうち、およそ半数以上のカスタマー サポートを一手に担っています。

「コールセンターでのお客様対応の流れは、まずお電話かメールでいただいたお問い合わせにオペレーターが回答し、その後でコールリーズン (問い合わせ内容) を手動でシステムに入力、さらに関連サービスと問い合わせ内容に応じて分類および登録する、というものでした」と語るのは、DMM.com プラットフォーム開発本部 カスタマサポート部でチーフを務める中川 将貴 氏。そのため、ACW に時間がかかっていたと振り返ります。「これは他のコールセンターでも同じような秒数だと思いますが、ACW の平均時間は約 160 秒でした。これをもっと短縮できないかと、以前から考えていました」。

これに加えて、オペレーターが入力したコールリーズンを分析する「VOC (Voice of Customer) 活用」にも時間がかかっていたというのは、DMM.com プラットフォーム開発本部 カスタマサポート部 CSコンサルグループでマネージャを務める高桑 彩華 氏です。

「オペレーターが入力したコールリーズンの全レコードを読み込み、それを目視で分析していたため、多いときには 5 人のチームで月間 300 時間以上、平均でも 260 時間程度かかっていました。その分析結果は月次レポートとして各事業部に提出し、これを基にしたデザイン改善などの提案も行っているのですが、分析に多くの時間が費やされていたため、改善提案に使える時間は限られていました。またオペレーターが入力するコールリーズンも 20 文字程度の簡単なものが多く、詳細な VOC 分析を行うには十分とは言えないものでした」。

これらの課題を解決するために活用されているのが、マイクロソフトが提供している各種 AI サービスです。2023 年 8 月に Azure Speech to Text と Azure OpenAI Service の採用を決定し、ACW と VOC 活用の効率化に向けた取り組みを推進しているのです。

実用に足る高い精度で音声をテキスト化、生成 AI によるコールリーズン要約も短期間で実装

「実は生成 AI が話題になり始めていたころから、カスタマサポートの領域で活用できないか、という検討を始めていました」と語るのは、DMM.com プラットフォーム開発本部 第1開発部 CSプラットフォームグループでマネージャを務める堀本 史朗 氏。そのためにはまず、電話で受けた問い合わせ内容を、自動的にテキスト化できるしくみが必要だったと言います。

そこで、Azure Speech to Text を含む複数ソリューションを選定し、これらの精度について評価。中川 氏と共同で 10 種類以上の実データ (音声データ) を用意し、それらのテキスト化がどのように行われるのかが、実機で確かめられていきました。

「その中で最も音声との一致率が高かったのが、Azure Speech to Text でした」と堀本 氏。「2 年前にも他のクラウド上で動く音声テキスト化ツールの試行を行い、当時はまだ使い物にならないと評価したのですが、Azure Speech to Text はそのころとは比べ物にならない精度を実現していました」。また中川 氏も「一致率が高いだけではなく、重要なキーワードが確実に文字化されていることも重要なポイントです。Azure Speech to Text なら十分に使い物になると評価しました」と述べています。

この結果を受け、2023 年 9 月末には Azure Speech to Text の実装が開始され、10 月末までに完了。電話でやり取りされた音声が、自動的にテキスト化されるしくみが実現します。並行して、文字化された音声を要約する機能も Azure OpenAI Service によって実現。合わせて 2023 年 11 月 1 日にリリースされています。

「Azure OpenAI Service を活用したコールリーズン要約機能は、1 か月足らずで最初のバージョンが出来上がりました」と言うのは、DMM.com プラットフォーム開発本部 第1開発部 CSプラットフォームグループでエンジニアを務める渡部 大基 氏。リリース後に発生した初期の不具合の修正は約 1 週間で行い、軽微な不具合の修正を含め合計 2 週間で概ね解消できたと振り返ります。

「Azure OpenAI Service はユーザー インターフェイスがわかりやすく、PoC や開発も GUI で簡単に行えます」と言うのは、DMM.com プラットフォーム開発本部 第1開発部 CSプラットフォームグループ CSプラットフォームチームでチームリーダーを務める吉田 孝紀 氏。また、Microsoft より Azure システム構成やアーキテクチャを提案してもらえたことで設計や PoC のコストが削減でき、これによって短い工期で自走できたと語ります。

これらの要約機能のベースとなっているのは GPT-3.5。Azure OpenAI Service で提供されているモデルをそのまま利用し、プロンプトのチューニングによって、要約内容の最適化が行われています。ただし要約対象の文章が長い場合 (約 45 分を超える通話で GPT-3.5 のトークン数上限を超える場合) には、Azure Functions に実装したアプリケーション機能が自動的に判断し、より多くのトークンを処理できる GPT-4 に切り替えるようになっています。また、Azure Functions に Azure Cosmos DB の Change Feed という機能を組み合わせることで、Azure Speech to Text から Azure OpenAI Service へのスムーズな連携も実現。今後 Azure OpenAI Service の Function calling などとも連携する上での拡張性も、担保することができていると言います。

近い将来には ACW の時間が半減すると期待、AI による VOC 分析支援の実現も検討

それではこれらの AI 活用によって、コールセンターの業務はどれだけ効率化されたのでしょうか。

「音声の自動テキスト化によって、ACW は平均で 45 秒 (約 27%) 削減されました」と言うのは中川 氏。月当たり 7,500 件のコールがあるため、月間で 93 時間の削減効果になります。問い合わせ内容の分類は現在も手動で行っていますが、コールリーズンの入力がなくなっただけでも大きな効果をもたらしていると語ります。

その一方で「VOC 分析も効率化されています」と高桑 氏。月間約 68 時間 (1 割以上)の時間が削減され、そのぶん改善提案の立案に時間を避けるようになったと言います。

「しかしそれ以上に大きいのが、より詳細な内容がコールリーズンとして記録されるようになったことです。以前は 20 文字程度の簡単な内容しかなく、オペレーターによる分類を頼りに分析を行っていましたが、今では『要件』『対応』『要望/不満』が明確に記録されるようになり、問い合わせのテーマやそれに対する回答、関連事業部が解決すべき問題点などが、以前よりもはっきりとわかるようになりました」 (高桑 氏)。

さらに「通話内容のテキスト化、要約の効果がもう 1 つあります」と指摘するのは堀本 氏です。それは、以前は対応後の登録漏れが月間 100 件近くありましたが、現在では 3 件にまで減っていることだと言います。「この 3 件は、電話を受けた後にすぐに切られてしまった、というケースなので、実質的な登録漏れはゼロになっています」。

今後は、オペレーターが手動で行っている分類作業も、AI で自動化していくと中川 氏。これが実現できれば、ACW はさらに 30 秒削減できるはずだと言います。自動テキスト化の効果と合わせれば月間約 200 時間、従来の半分近くにまで削減できると期待されているのです。2024 年 3 月には既にその設計作業がスタート。また 2024 年 2 月にはメール応対の要約へも対応できるようになり、機能拡張が次々と進んでいます。

さらに高桑 氏は「近い将来には VOC 分析そのものを AI で支援することも考えています」と言及。人がプロンプトを入力するだけで分析結果が得られるしくみをぜひ実現したいと述べています。

「そこに至る前段階として、Microsoft Power BI と Microsoft Fabric を組み合わせた分析基盤の検証を進めています」と言うのは堀本 氏。これが期待通りの結果を出せれば、Azure OpenAI Service や Microsoft Copilot を VOC 分析に組み込むことも容易になるはずだと言います。「今後も AI 活用に積極的に取り組み、単純業務はすべて AI に任せ、人がやるべき仕事に人が集中できるようにしたいと考えています」。

“音声の自動テキスト化によって、ACW は平均で 45 秒 (約 27%) 削減されました。オペレーターが手動で行っている分類作業も自動化できれば、ACW を半分近くまで削減できると期待しています”

中川 将貴 氏, プラットフォーム開発本部 カスタマサポート部 チーフ, 合同会社 DMM.com

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