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2024/08/20

地元パートナーと手を携えて、Azure OpenAI による生成 AI を積極的に業務で活用。デジタルの力で県民に豊かな暮らしを提供する山梨県の取り組み

世界遺産の富士山はもちろん、八ヶ岳や南アルプスなどの美しい山々に囲まれた山梨県は、豊富な自然や美しい水に支えられた農産業や工業などの様々な日本一があり、ぶどうや桃などの農産物や、ワイン、ジュエリーなど優れた県産品は「やまなしブランド」として、国内外で親しまれています。

2023 年 10 月に策定した新たな総合計画では、県民の豊かさや幸せを一層増進させるため、県民の生活基盤を強化する「ふるさと強靱化」、すべての人に開かれた社会を目指す「開の国づくり」、県民一人ひとりに豊かさを届けられる「豊かさ共創社会」を目指しています。この総合計画に基づき、山梨県DX推進計画では、行政サービスの向上、新たな産業の創出、県民の QOL (クオリティー・オブ・ライフ)向上などに向けた DX 関連の取り組みを体系的に整理しています。

Yamanashi Prefecture

知事の旗振りにより生成 AI ツールを導入

同県では 2024 年 3 月に人口減少などの社会情勢や国の動向なども踏まえて DX 推進計画を改定したところであり、山梨県 DX・情報政策推進統括官 推進監補佐の渡邊 雅義 氏によると、「デジタル技術を活用できる人材を増やすとともに、地域経済を支える産業分野での DX をはじめ、暮らしや行政など社会全体の DX を加速し、「県民一人ひとりが豊かさを実感できるやまなし」の実現に寄与することが、この計画の目的」だといいます。

同県においては、行政の長である知事の旗振りによって、これまでも全国に先駆けた DX 施策を進めてきた実績があります。行政情報ネットワークの β‘ モデルへの移行にもいち早く取り組み、コロナ禍における情報ネットワークの柔軟な運用を実現しました。当然、2022 年にリリースされ、爆発的に世界中に普及した生成 AI の動向もキャッチアップされており、2023 年に入ってすぐに「生成 AI の利活用を検討するように」と知事から DX・情報政策推進統括官へ要請があったそうです。

「生成 AI は事務作業の効率化や行政サービスの向上につながることが期待されました」と渡邊氏。県では 2023 年 6 月頃から、生成 AI の有効性や活用できそうな業務について検討を始めました。

「まずは希望した職員に試行的に生成 AI を利用してもらい、行政分野における活用の検討を依頼しました。アンケートを取った結果、施策の立案や業務効率化に非常に有効だったという意見が多数寄せられました」と語るのは、生成 AI 活用の企画立案や調達を担当した DX・情報政策推進統括官 主任の大木 久 氏。

まずは政策アイデアの生成や文書の校正などに活用できるよう、検討開始から半年後の 12 月 1 日に、全庁的に Microsoft の生成 AI ツール「Microsoft Copilot」の利用を開始。ガイドラインと研修動画を公開し、生成 AI を利用したことがない職員でも活用できるよう周知した結果、4 ヶ月間で述べ 5 万回の利用があったそうです。

「行政の職員は文章をつくる仕事が多いので、通知文や企画書などの文面要約や添削に力を発揮する生成 AI は、非常に親和性が高いと感じました」(大木氏)

また、Microsoft Copilot では山梨県が保有する独自のデータを踏まえた回答が得られないため、Azure OpenAI Service の試行も並行して行われました。

「Azure OpenAI Service とMicrosoft Azure のさまざまなサービスを組み合わせることで、山梨県独自のデータベースを活用した生成 AI の構築など、活用の幅が広がると考えました」(渡邊氏)

「Azure OpenAI Service」による生成 AI システムを県内のパートナー企業と開発

Azure OpenAI Service の導入パートナーに選ばれたのは、山梨県に拠点を置くSIer(システム インテグレーター)の株式会社 YSK e-com でした。同社は 2021 年に山梨県が行政情報ネットワークの β‘ モデルへの移行を行った際に改修業務を請け負った事業者であり、Microsoft 365 の導入、運用実績を豊富に有しています。

しかし、発注当時は Azure OpenAI Service がリリースされたばかりで、国内の地方自治体での本格導入事例は皆無と言っていい状況でした。渡邊氏が「日本マイクロソフトさんには手厚いサポートを提供していただきましたが、当時はまだノウハウや情報が少なく、手探りの状態でプロジェクトを進めざるを得ませんでした。YSK e-com さんにも、かなり無理をお願いしたと思います」と当時を振り返るとおり、YSK e-com にとっても大きなチャレンジでした。

それに対して「Azure OpenAI Service に限らず、海外ベンダーの製品を使う場合は、英語圏の事例を探したり、海外の技術者が発信しているブログを読んだりといった作業は常日頃行なっていますので、そういった情報を組み合わせて対応しました」と語るのは、株式会社 YSK e-com ネットワークソリューション事業本部 ソリューション部 技術部長の田中 良美 氏。この言葉には、未知の技術であっても積極的に情報を得て自分たちの知見として蓄えてきた同社の姿勢が表れています。

また、株式会社YSK e-com ネットワークソリューション事業本部 取締役 事業本部長 三井 信三 氏は、「手探りではありましたが、Azure OpenAI Service は Microsoft の製品です。なにかあっても必ずサポートしてくれるだろうという安心感は持っていました」と、長年のパートナーシップに根差した信頼があったからこそ、情報の乏しいなかでも作業を進められたことを明かします。

「しっかりと裏付けを得ながら、かつ迅速に作業を進めてくれるので、とても助かりました。地元にこのような企業があることは、山梨県にとっても大きな意味があると思っています」(渡邊氏)

こうして、山梨県、日本マイクロソフト、YSK e-com の 3 者は密に連絡を取り合いながら構築作業を進め、Microsoft Copilot の導入と同じタイミングでの検証環境を実現。いくつかの PoC を通して評価が行われました。なかでも高い効果を得られたのが、議会答弁文書の添削機能だったと言います。

「この機能では、答弁文書の下書きを生成 AI に読み込ませると、ルールから外れた表記がハイライトされます。答弁文書には細かい表記ルールが定められており、これまでは複数の職員による目視でのチェックが行われていたのですが、その作業を生成 AI に自動処理させることで、大幅な業務効率化を実現できました」(渡邊氏)

また、財務会計の事務作業における Q & A 機能についても PoC を実施。精度に課題はあるものの、膨大に存在する規則やガイドラインのなかから回答の参考となる文書をピックアップできるため、こちらも大幅な作業効率化が期待されています。

トップダウンとボトムアップのニーズによって加速した市民開発プロジェクト

「山梨県DX 推進計画」においては、デジタル人材の育成も大きなテーマとして掲げられています。この動きに拍車がかかったのは、新型コロナウィルス感染症の流行が拡大した 2021 年頃のことでした。
デジタル人材育成を担当する DX・情報政策推進統括官 主事の新海 直人氏は、当時をこう振り返ります。

「コロナ対策の最前線である保健所では、Excel で罹患状況をまとめていたのですが、罹患者数やその付帯情報は刻々と変化し、すぐに人手が追いつかない状況になってしまいました」(新海氏)

当時まさに保健所に勤務しており、コロナ対応にあたっていたという大木氏も大きく頷きます。「システム構築に多くの時間を要したうえに、急激な感染拡大にシステムが対応できなかったために、多くの職員を動員して対応する必要が生じ、全庁の業務に多大な影響が及んでしまいました」(大木氏)
これを契機として、現場からは自分たちで情報システムをつくれないか、という意見が出るようになったといいます。

一方で、全県的な人口減少に悩まされ、コロナ禍以前から人材不足が指摘されていた同県では、人事制度の抜本的な改革を進めようとしていました。その施策として、リモートワークの推進や長時間労働の削減、産休・育休の取得制度改革などのほかに、デジタル ツールを活用した業務効率化が求められていました。

「現場のニーズをふまえて、DX・情報政策推進統括官としてできることを検討した結果、Microsoft Power Platform のツール群を活用したノーコード・ローコード開発を行える人材の育成が有効だと判断しました」(渡邊氏)

専門的なコーディングの知識がなくても扱えるノーコード・ローコード ツールとはいえ、未経験者がいきなり使いこなすのは簡単ではありません。そこで DX・情報政策推進統括官のメンバーは、希望する職員を対象とした研修を計画、参加者を募集しました。すると、想定以上の参加希望者が集まったそうです。

「皆さんからの市民開発への大きな期待を感じました」と新海氏。研修では「ノーコード・ローコード ツールとはなにか ?」から学べる初級者研修と、Microsoft Power Apps、Microsoft Power Automate を使ってアプリを作成する中級者研修を実施。前者はオンラインで約 500 名、後者はオンサイトで約 300 名の参加があったそうです。この流れを受けて、DX・情報政策推進統括官ではガイドラインを作成して自主開発を支援。Microsoft Teams 上に市民開発者コミュニティのチャンネルを設置して問い合わせ対応や事例紹介を行っています。

「まだ着手して間もないため、個々に身の回りの業務で役立つアプリをつくっている段階ですが、Teams のコミュニティで簡易的な OCR(Optical Character Reader/光学文字認識) アプリが展開されるなど、少しずつ共有事例も増えています」(新海氏)

現場とトップ、双方の考え方の一致が成功の要因

今回の取り組みを振り返って「働き方改革や業務効率化は、現場だけでもトップだけでもうまく進まないと感じています。当県がいち早い生成 AI の業務への導入や市民開発プロジェクトの推進に取り組めたのは、現場とトップ双方の考え方が一致したことが大きな要因だったと思います」と総括する渡邊氏。

渡邊氏は続けて「Azure OpenAI Service は評価の段階を終えて、庁内への展開フェーズに入っていきます。各部局へ情報を共有して、多くの業務に活用していきたいと考えています。さらに今回のプロジェクトで得られた知見を県内の市町村にも共有していく予定です」と今後の展望を語ります。

大木氏は「現場の職員への周知はまだ不十分だと感じています。Azure OpenAI Service や Power Platform といった便利なツールの周知に力を入れていきたいと思っています。庁内全体が、新しい技術を使って変わっていけるよう支援していきたいです」と、デジタル技術を使った変革においては、使う立場の職員に寄り添う気持ちが大切であることを示唆。

新海氏は「ノーコード・ローコード ツールはとても便利ですが、まだ一般職員のなかにはハードルが高いと感じる人もいます。Word や Excel のように誰もが使いやすいツールの開発を期待しています」と Microsoft への期待を語ってくれました。

全国でも屈指のスピード感でデジタル改革を推進し、着実に業務を変革しようとしている山梨県。その背景には、改革への強い意思を持つトップと、同じ危機感を共有して期待に応えようとする現場の力、そして真摯に IT 技術と向き合う地元事業者の存在がありました。
人口減少や産業の空洞化といった社会問題は、どこの地方自治体においても大きな課題となっています。その解決に向けたヒントのひとつが、同県の取り組みに現れているのではないでしょうか。
日本マイクロソフトはこれからも、こうした先駆的な取り組みを支え続け、全国の自治体の皆さまに役立つソリューションを提供してまいります。

“手探りではありましたが、Azure OpenAI Service は Microsoft の製品です。なにかあっても必ずサポートしてくれるだろうという安心感は持っていました”

三井 信三 氏, ネットワーク ソリューション事業本部 取締役 事業本部長, 株式会社 YSK e-com

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